僕は気ままな風になる「僕は気ままな風になる」出版に向けて近い将来、本を出版しようと考えている。 既に表紙のデザインもできあがっているし、プロローグ(序文)も書いた。 誰のためでもない、半分は自己満足のために、そしてあと半分は、自分の歴史を後世に残すために。 自費出版でもかまわない。自分が生きた証しとして、自分の青春時代になしとげたものをひとつの形にして残しておきたいだけなのだ。 【プロローグ】 そう、あの時確かに僕はあれらの風景の中に含まれていた。僕もまたその風景を構成する一要素として、その場になくてはならない存在だったのだ。 瞳を閉じて、じっと神経を集中させると、僕は今でもあのハイウェイのことを思い出すことができる。果てしなく広がる荒野に延びる一本の道をたどることで、僕は自分の夢を追い続けた。来る日も来る日もひたすらペダルを踏みながら、地平線の果てへと…。 しかし、目を開けた瞬間、僕はもうその世界にはいない。僕がそこにいたという記憶が残像としてまぶたの裏に映るだけだ。 そして僕は自分に問いかけてみる。 「僕は本当に自分が求めていたものを手に入れることができたのだろうか?」 答えはNOだ。 あの時感じた風の匂いや僕が見てきた世界は、今や虚構の世界に葬り去られつつある。もはや誰もそれを止めることはできないし、僕にはなす術(すべ)もない。 遠く過ぎ去っていく風景、呼び戻すことのできない時間、それらのものに僕は、ただ黙って手を振るしかないのだろうか…。 夢は一度現実のものとなり、悲しいことに再び夢と化してしまったのだ。どうあがいてみたところで、その事実をくつがえすことはできない。唯一残された手立てがあるとすれば、もう一度スタートラインに立つこと。 あの時の風が僕にこう囁きかける。 「君がこの風を感じたければ、いつでも感じることができるんだ。君の行く所に必ずこの風は吹いているからね」 ひとすじの風が僕の頬(ほお)を撫(な)でるように掠(かす)め、またどこか遠くへ去っていく。 風は、ひょっとしたら、いつの時代も僕にそんなメッセージを送り続けていてくれたのかも知れない。ただ僕がそれに気づかなかっただけのこと。 道祖神(どうそじん)は声高らかに旅立ちの歌を歌い、そよ吹く風は優しく放浪のメロディを奏でる。 僕は痺(しび)れを切らせずっとずっとその機会を待ち続けていた。 一日一日が、この風とともに過ぎていく。あてもなく気ままに流れていく不思議な空気を、一体誰が感じたことだろう。 そう、あの時確かに僕はあれらの空気の流れを肌で感じ取っていた。 僕もまたそんな空気と交じり合ってごく自然にその場に存在していた。 風が吹くと僕はいつも風の吹く方向に目を向け、そのはるか彼方にあるもののことを思いやった。時にそれは故郷であったり、僕の未来であったりもした。 やがて、それらの思いは次第に薄れ始め、時間とともに僕そのものがあたりの空気に同化していく。時間も空間も存在しない世界で、僕はもうこのままどうなってもいいとさえ思った。 僕は風、君は空。太陽も月も星も、みんな僕らの仲間だ。 そう、僕は、とりとめのない気ままな風になる。 |